ワークショップとファシリテーター育成

2/18に福武ホールで行われた「ワークショップとファシリテーター育成」というシンポジウムに行ってきました。

このシンポジウムに行った理由のひとつは、Twitterでフォローしている森玲奈(@Reina_mori)さんの研究が気になっていたからです。

ファシリテーターという立場は、会議やミーティングなどで双方の意見を取りまとめながら、相互理解を促す調整役のことで、ハーバード白熱教室で話題になったサンデル教授の役割といえばわかりやすいでしょうか。

ただ、今回のシンポジウムで語られるファシリテーターという立場は、子供の情操教育として開かれているワークショップにおいて、小グループに分かれた子供達を見守りながら、与えられた課題の解決方法(アイデア)を導き出す手伝いをする役割をする人のことを指します。

福武ホールのHPからファシリテーター育成に関する研究成果を見ることができます。

今回のシンポジウムでは、森さんが中間層育成のためのワークショップをの形をつくって”「あたふた」ワークショップ”という名前で発表されました。その背景として、ファシリテーターの初心者を育てる方法は既にいくつかあるものの、ミドル層のファシリテーターを育成するプログラムはまだ少ないことが挙げられます。

シンポジウムでは実際に目の前で実演していただき、雰囲気をつかむことができました。

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あたふたワークショップ

参加者(標準):中堅ファシリテーター(以下中堅)6名 ベテランファシリテーター(以下ベテラン)2名で一組。

●ワークショップ
I.中堅:さいころを振る

II.中堅:出た目に該当する項目について話す

1.(ファシリテーターをしていて 以下2〜6にも文頭につく)困ったこと
2.印象に残っていること
3.もやもやしていること
4.うまくいったこと
5.笑ったこと
6.楽しかったこと

III.ベテラン:並べてあるカード(このカードは中堅ファシリテーターに必要な項目が書かれており、全てばらばらの項目が書かれている)
から1枚選び、カード解決法を話す。その後、カードを中堅にプレゼントをする。(ベテラン1名につき1枚のカードを選択→アドバイス→プレゼントの過程があるので、中堅は2枚のカードをもらうことになる)
5、6の目が出たときにはベテランはカードは引かない

会場には実際に使用されているカードを見ることができた。ちなみに、このカードはパワーポイントで作成し、厚紙に印刷して切り分ければつくることができる。カードに書かれている文章を挙げると、
「こどもに対し、表情豊かに接する」
「こどもは大人と違うスピードで成長している」
「危険な道具や場所に対して確認し、配慮ある対応をする」
・・・といったものでした。

ここまでで一つの流れが終わり、I.にもどり、別の中堅がさいころを投げる。
一通り終わったら:ベテラン抜きで話し合う。ベテランはお茶の用意
ベテラン抜きで話し合うのは、中堅だけで解決できる問題もあるのではないか、という意識から。

その後、ベテランを交えて再度話す。
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ワークショップの説明が終わった後のパネルディスカッションなどで話された事柄

●大学の授業への導入
大学の授業の一環としてファシリテーターとしてWSの手伝いをしてもらった学生がどのような感想をいだいているかの紹介がありました。
そこでは、「待つこと」の大切さを実感している学生が多いことが紹介されました。

ファシリテーターにおける初心者(ノービス)と中堅(ミドル)の違い
初心者は何をやっても新鮮に感じる。ミドルは基本的なスキル・ネットワークは身についているが、それらの使い方の場面に迷い・もやもやがある。ある研究結果では3年という期間が出ているが、教師のように毎日行うものではないので、尺度は難しい。

ファシリテーターと教師の違い
教科書:教師は有る/ファシリーテーターにはない。
テーマとゴール:テーマは両者にある。ゴールは教師にあるが、ファシリテーターにはない。
立場:教師は生徒の立場をはっきり分ける。/ファシリテーターは分けない。
評価(テスト):教師はある/ファシリテーターにはない
計画性:教師は長いスパン(数ヶ月単位)で一定の範囲を教える必要があるので、長期的に計画を立てる必要がある。/ファシリテーターはその場(数時間)で1つのことが終わってしまうので、長期的な計画性は身につきにくいかもしれない。

●継続的に学生にボランティアに来てもらうためには
定期的に声をかけて参加を促す/気軽に雑談・相談(フォロー)できる場所であること

●よいワークショップとは
参加者が楽しめるもの/終わった後に、じゃあ次はどうするかを考える/問題を持ち帰る。
主催者側として:余白を意識する。準備までに完成させない。当日完成させる。

●よいファシリテーターとは。
何が起こるかが予想できる/状況に応じて柔軟に考えられる

:その場が心地よいことであること。その人にとってメリットがあること。一度目いい体験ができた。けど、二度目の時にはダメ(一度目よりもよくなかった)だった。ダメだった人のフォローができるところ。

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以下感想など
◎あたふたワークショップについて

 ●あたふたの意味
このワークショップの名前に入っている「あたふた」する部分は中堅にとってはさいころを投げる部分で、さいころの目が出ればその話をしなければならない(もし話しにくい話題になっても、話すことになる)という面を持っているけれど、その一方でさいころを振らなければあまり話題にしにくいことも、さいころに該当するテーマで話さなければならない、というルールであれば自然と話ができる。
また、ベテランにとっては中堅に渡すごとにカードが少なくなっていくので、カードが少なくなるにつれて、いいたいこととカードを上手く結びつけながら話す必要が出てくるのでその部分があたふたする部分になっててくるんだろう。

 ●カードの数について
30〜40枚くらいあるカードを使う、という話を聞いて、会場で机の上に並べられたカードを見て、少し多いのではないか。と感じたので、シンポジウム後にTwitter上で森さんに質問した。すると、
カードの数は少ない、多いの両方の意見がある。
カードはあくまで雑談を誘発するための手段の一つ
WSが進むにつれてカードは少なくなっていくけれど、その状態でベテランがどう中堅に伝えたいこじつけるような難しさも出てくるけれど、脱線がうまれればいい。
とのお返事をいただいた。

対象となるファシリテーターが6人いて一人に対してベテランから2枚のカードが渡される。1周した時点で最大でなくなるカードは12枚だ。ベテランによって引かれるカードはさいころを投げた人にプレゼントされる。既に書かれている具体的な事柄について話したあと、雑談に持ち込む動線については森さん自信もまだ改善の余地があるようです。
私の考えは、カードにかかれたことが既に具体的なものであるが故に、ベテランが解決策をいった時点で完結してしまうのではないか、なんて思ったのだった。

 ●ごきげんようとあたふたWS
フジテレビの平日午後1:00〜1:30に小堺一機さんがホストを努めるごきげんようという番組がある。
その番組では毎日3名のゲストが出て、このあたふたWSと同じように、さいころで出た目によって話す内容が紹介され、ゲストはその目に従ったお題について話す。
その時には、基本的にさいころを振ったゲストが主役ではあって、小堺さんや他の2名のゲストは聞いているだけなのだけれど、ホストの小堺さんや聞く側のゲストは相槌は打つものの、基本的には話しているゲストに最後まで話をさせる。そして、話が終わると。小堺さんはそれまで聞いていたゲストに話を振るのだけれど、そこから「私も似たようなことがありました」などの雑談が生まれる。あたふたWSに置き換えるならば、小堺さんのような役割を一人おいて、ベテランのアドバイスが終わった後に、他の中堅に「●さんと似たようなことがなかったか」、「自分だったらどういうアドバイスが出来るか」などを聞いたら雑談が増えるかもしれない。

◎待つこと、について。
これはワークショップに限らずあることだと思う。私の経験でかくと、家庭教師で生徒に勉強を教えている時のことだ。生徒に問題を解かせた時に「どこから解けばいいのかわからない」という。
その時に、最後まで教えるのではなく、「ここに線を引いてみたらどう」などの助言をして、生徒が自力で解けるまで「待つ」
また、勉強の集中力が途切れてしまった時に、少しの時間休憩して一緒に遊ぶ、雑談するなどして、生徒がまた勉強に取り掛かれるまで「待つ」だったり。
私はこのような子供を相手にしたワークショップのファシリテーター役の経験はないので、あくまで想像だが、もし自分がこの立場になったら、家庭教師のようなやる問題が決まっていることよりも、どうなるかわからないことへの不安がある。

◎その他
今回のシンポジウムに参加して、直接はここで話題になっているファシリテーターの役割は私の普段の業務とはほぼ関係のないことだったけれど、いくつも考えさせられることがあった。教師とファシリテーターは「待つ」だったり「テーマ」があることは似通っているが、教師のような先生が生徒に教えるという上下関係がある。一方ファシリテーターのように、できるだけ参加者と同じ目線で(ただし介入し過ぎない程度に)みんなをゴールへと導く。
このような差はあれど、例えば一般企業ではどちらか片方のタイプだけでは成り立ったず、両者が上手くかみ合わさることによって、まわっていくのではないだろうか。
会社全体では社長がビジョンを語り、そこに社員がついていくという教師役を務める。(社長は教師のように全てのゴールが見えているわけではないけれども、社員にこの会社はこういうことをしていくという指針ははっきり出したほうがいいと思っている)
個々の業務についていくつかのグループで進めていく作業はリーダーがファシリテーター役となり、グループ全体でよい成果を目指すタイプが適切かもしれない。

また、これまでTwitter上でぼんやりしかしらなかった森さんがどのような研究をされているのかを具体的に知ることができてよい機会だった。意見を聞いていて、空間という場の雰囲気についてとても考えている方なのだろうなと思う。終わった後に少しだけご挨拶させていただいたのだけれども、機会があったらお話してみたい。とても有意義な時間を過ごすことができました。ありがとうございます。