岸勇希×河尻亨一@art Chiyoda 2/2

前回はカンヌレポートまで書きました。

ここでは、Bの岸さんの現在の仕事について書いていきます。

○カレーの話
Q「とびきりうまいカレーを作るとしたらどうするか」
A.「世界中から最高の食材を手に入れて、最高のシェフが調理し、何度も試食を繰り返して、最も評価のよかったものを出せばいい」

答えのひとつかもしれないけれど、これは今まで誰もがやってきたことだった。
ただ、それが一番うまいカレーなのか。例えば、1年間カレーを食べたいのを我慢した後に食べたカレーは例えレトルトでも、とてもうまいと感じるのではないか。

カレーの話はひとつの例えで、「うまいカレー」をつくってほしいという依頼(クライアントからの要望)に対して、素材で勝負するか、それともシチュエーションで勝負するか。

岸さんがしている仕事は、それらを纏めてトータル的にプロデュースするのが岸さんの「コミュニケーションデザイン」という仕事


○ラーメンの話(河尻さん)
ラーメンに対する志向
今60−70代の人は山盛りのラーメンが食べられればいい。
30代あたりの人は色々なラーメンが食べられればいい。
では、今の10代、20代はどう考えているか。
「おいしいのは当たり前。加えて、いつ、誰と、どういうシチュエーションで食べられるかが大事」(川尻さんが作家の白岩玄さん(野ブタ。をプロデュースの作者)にインタビューにて)


○仕事観について
大前提:クライアントの期待に答える(だから、自分にはつくりたいものはない)
コミュニケーションデザインschemeはない。生きていくことにどれだけhospitalityをもっているかが大事。
そのうえで、一人でもhappyになってくれる人がいればいい。
happyになってもらうためには、「普通」になる。「普通」になるには情報感度を高める必要がある。小悪魔agehaを馬鹿にしてはいけない。

ピカチュウとNARUTOを舐めてはいけない。onepieceとモンハンを軽んじてはいけない。sweetとbleachから目を離してはならない。子悪魔ahehaと怪盗ロワイヤルを馬鹿にしてはならない。ラブプラスと西野カナを拒絶してはいけない。

仕事で評価された時の数日間は楽しい。けれど後はいつも苦しい。だけど、その楽しさを味わいたくて仕事をしている。
岸さんは今の若い女性を知るために16の女性誌を年間購読して、彼女たちが普段接している情報と同じものに触れている。
その結果生まれたのがJUJUの「素直になれたら」ペアムービー

○「素直になれたら」ペアムービーの制作裏話

・始めに携帯をつかって動画を流すという出発点が提示される。
・しかし、普通に携帯で動画を見せても何も面白くない。
・だったら、携帯で見たくなる動画をつくればいい。
・携帯というメディアの特性を掘り下げ、携帯だからみたくなるような設計をする。
・その後、クリエイティブを考える。
・携帯をテーマにした歌詞。「携帯は一日の最後の明かり」(電気を消して布団に入ってからも最後に携帯の画面を見る)
・女性が恋人にメールを書くとき、どのような感情になるのかを考える。(例:2回続けて自分からメールをしたら、変じゃないだろうか。など)

○今の仕事の行方
・今はコンテンツ作りをしているので、ライバルは秋山康氏、小山薫堂氏になる。
・ドラマを作っていると、映像の技術は負けてはいないが、音入れの技術はCM制作よりも進んでいるので学ぶ部分が多い。
・これからはhappyの優先順位を上げたものにも取り組んでみたい。

                                                                                                                                                                            • -

以下感想

河尻さんとのやり取りでは、時に頭の回転が早すぎてついていけなくなることも何度かありましたが、とても充実した3時間でした。
JUJUのペアムービーの制作話の組み立て方がとても分かりやすかった。はじめに使用するメディアの特性を考え、それを使う人の気持ちを考え、クリエイティブに結びつける。岸さんの話し方は高松聡さん(@satoshiTAKA)に近いものを感じた。問題をあぶりだして、一つづつ解決の策を積み上げていく。一つづつ掘り下げていくことはとても辛い作業なのだろうけれど、成功した時の何物にも変えがたい充実感のために仕事をしている岸さん。仕事ではクライアントの期待に答えることを大前提にしていますが、今回のトークショーでも会場の人が楽しんでいるかを心配されている場面がありました。「もしこの内容で少しでも不満に思っている人がいたら、全体の満足度を下げないで、活その人のために満足する話をしたい」とおっしゃっていた岸さんは、根っからの仕事人なのだなという印象を受けました。
広告は内輪で評価されるためにあるものではなく、社会に評価されてこそ意味がある。と強い言葉で語ってくださった岸さん。これからどのような仕事をされていくのかとても楽しみです。