「自分ごと」だと人は動く

博報堂DYグループ エンゲージメント研究会が書いた「自分ごと」だと人は動くについて紹介します。

「自分ごと」だと人は動く

「自分ごと」だと人は動く

エンゲージメントって何?と疑問に思う方もいるかもしれませんが、それは後ほど。この本はこれからの広告を始めとするコミュニケーションについて、今までと比べてどのように変わってきたのか。そして、これからはどうなっていくのか、について書かれています。

I.メディア環境について
○20世紀
ラジオ、テレビといった一度に大量の情報を多くの人たちへ伝える機能を持ったマスメディアが登場した。このときの情報の流れは、マスメディアから生活者となっており、生活者は一方的に情報を受け取るだけの存在だった。

○現在
21世紀になって大きく3つの変化が生まれた。
「過剰な情報量」・・・個人が処理できないほどの情報があふれるようになった。
「情報の発信源」・・・これまで一方的に受け取っていた情報を個人がブログやSNSなどを使って発信するようになった。
「情報のユビキタス化」・・・技術の発達で、携帯電話やパソコンを使えばどこでも情報が得られるようになった。
特に上記の2つはインターネットの利用が当たり前のように使えるようになったことが大きい。

II.タグ化する個人

タグとはtagのこと。「ラベル」や「ラベル」という訳がついている。ここではタグは個人の趣向をキーワードであらわしたものと考える。
○○系という言葉があるけれど、そのように大まかに区切るのではなく、タグを使うと新たな部分が見えてくる。例えば、格闘家の長島☆自演乙☆雄一郎さんであれば、[格闘技][K-1][コスプレ][東方]などのタグが見えてくる。そうすると、興味や関心がある事柄で、人とつながることが出来る。その結果、これまで大衆の中でくくっていればよかったものが、どんどん細かくなり、今では網衆(もうしゅう:網の目のように細分化されてつながっている)という概念も出てきているようだ。

III.スルーされるとスルーされない情報
その結果、自分では処理できない大部分の情報は、「スルーされる」ことが多くなった。スルーとは、文字通り、情報が目や耳に入ってきても、頭の中に残ってはいないということ。だから、例え左耳から情報が入ってきても、右耳から抜けていく。それを無意識のうちに行っている。

その一方、スルーされないで、受け取った側が「いい」と思った情報は、ブログやSNSTwitterを通じて発信されていく。スルーされる情報とされないものの違いは何か。

それが「自分ごと」の情報。「他人事」は「自分に関係のないこと」だから、「自分ごと」は「自分に関係のあること」になる。それは感動したり、好意を持ったりといった心を動かされた情報。そうすると、人はその情報を誰かに伝えたくなり、情報のシェアが起こる。そうすると、それを見た別の人が・・・と情報が広がっていく。

IV.「自分ごと」の情報をつくるには
本書では「突っ込みどころ」をつくることが「自分ごと」のきっかけになるといいます。例えばソフトバンクの犬のお父さん。父親が何故犬なのか?という突っ込みどころを押さえています。しかし、それはあくまで導入部分。シェアが起こるには共感してもらうことが必要になります。そのために、先ずブランドと生活者の結び目となる「エンゲージメント・テーマ」を探します。エンゲージメント(engagement)の意味には「(歯車が)噛み合うという意味があり、生活者とブランドがTo(ブランドが生活者に一方的に情報を与える)ではなくWith(お互いが協力して作り上げる)という意味がこめられているようです。

その後は「エンゲージメントテーマの体験」→「見た人に自分ごとの意識が芽生える」→「情報が共有される」

テーマの体験では、食品の場合は飲んだり食べたりして感じてもらう例が挙がっていましたが、CMやWebでも可能。(もちろん、それぞれ得て不得手はあるので、どのような形で体験してもらうのかは考える必要がある)

ケーススタディとして「自分ごと」としてうまく機能した4つの取り組みを紹介しています。

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関心や興味というと、ベン図で共通項をくくりだすのが分かりやすいという人がいるかもしれません。算数の問題でもありますね。(例えばクラス○人のうち、理科が得意な人が×人、社会が得意な人が△人。どちらも苦手な人が□人。ではどちらも得意な人は何人でしょうのような問題)

ただ、ここまで個人の趣向が細分化されていくと、ベン図ではとても複雑で、あらわしにくい。
タグという概念であれば、分かりやすい。可視化して考えるのであれば、マークシートとキーワードが記載された紙があって、そのキーワードに該当する項目にマークを塗りつぶして集計すると、タグでどのようなつながりがあるのかが見えてくる。まさに網の目のような構造になっているのでしょう。

しかし、その一方でタグ化されていくと、個人個人の結びつきが希薄なものになっていくのではないかという考えもあるかもしれない。私自身Twitterでフォローしている方はいくつかのタグに分かれている。けれど、そのタグはTwitterを始めたときに比べて変わってきている。元々一つのタグでしか結びついていなかったけれど、TLに流れてくるつぶやきに興味を持って、そこから新たなタグができたこともある。また、気になるつぶやきをしている人には会って話をしたくなる。何人かの方とは直接会って話をしましたが、その中でまた新たなタグを発見できることもあります。
だから、タグ化することで人間関係が希薄になるのではなくて、むしろ、タグがたくさんあったほうが、その分つながりができるきっかけになっているのだと思う。

紹介されていた「自分ごと」のケーススタディではどちらかというと、ハッピーな方向に向けられていたかと思いますが、今話題になっている取り組みで「自分ごと」といえば、塩野義(シオノギ)製薬のコレステロールバランスの啓蒙キャンペーンでしょう。


このキャンペーンの「エンゲージメント・テーマ」は「動脈硬化は自分で気づけない。だから悪玉と善玉のコレステロールのバランスを把握しておきましょう」というもの。CMの最後に流れているテロップです。

このCMがスルーされない仕組みは音楽の力が大きいかと思います。音楽自体は繰り返しなのに、かき乱される気持ちにさせられます。自分の場合、音楽を聴いただけで鼓動が早くなっているのが分かりました。これはあまりない体験です。
つっこみどころは「動脈が詰まっていく様子が、背中に貼っていて、他人から見えること」です。言うまでもなく、他人の心臓がどうなっているかは分かりません。が、このCMでは動脈硬化をわかり易く説明する道具としてあのような絵を使ったのだと思います。
これをCMで体験します。見た人の中には、自分もいつか突然倒れるのかもしれない。と不安を掻き立てられた方もいるかもしれません。
その結果、Twitterやブログ、SNSなどでこの話題をシェア→伝播していくという形になっています。

ただ、言うまでもありませんが、「自分ごと」の問題と捉えるのは「不安を駆り立てる」ものだけではありません。ToからWithへ網衆になった私たちにとって「エンゲージメントテーマ」はより深く考えられていくべき問題だと考えます。